健診センターはこちら

潰瘍性大腸炎・クローン病

炎症性腸疾患とは

腹痛腸に起こる炎症性疾患を幅広く含む総称です。
共通した主な症状は、痛み、発熱、下痢などで、こうした症状は体内に入ってきた病原体や異物などを排除するために生じています。
感染症や血流障害など明確な原因があって生じる特異性腸炎(特異的炎症性腸疾患)、はっきりとした原因がわからない非特異性腸炎(非特異的炎症性腸疾患)に分けられます。

炎症性腸疾患の原因

特異性腸炎

ノロウィルス・ロタウィルスなどのウイルス、病原性大腸菌(o157)、腸炎ビブリオといった細菌などによる感染症、抗生物質などによる急性出血性大腸炎、全身性疾患、放射線障害、血流の悪化など、原因がわかって起こっている炎症性腸疾患です。


非特異性腸炎

代表的な疾患に、潰瘍性大腸炎、クローン病、単純性潰瘍、ベーチェット病があります。難病指定されている潰瘍性大腸炎とクローン病は近年、患者数が増加傾向にあります。似た症状や経過をたどりますが、異なる治療が必要になる別の疾患ですので、消化器内科を受診して確定診断を受け、適切な治療をできるだけ早く受けることが重要です。

潰瘍性大腸炎とクローン病

潰瘍性大腸炎とクローン病は患者数が増加傾向にあります。はっきりとした原因がわかっていないことから、どちらも難病指定されていますが、適切な治療を続けることで発症前に近い生活を送ることも可能です。症状の多くが共通していて、症状のある活動期と落ち着く寛解期を繰り返すなど似た経過をたどりますが、異なる治療が必要になる別の疾患ですので、消化器内科を受診して確定診断を受け、適切な治療をできるだけ早く受けることが重要です。

潰瘍性大腸炎について

大腸粘膜が炎症を起こしてびらんや潰瘍が生じ、症状を起こす活動期と、症状が落ち着く寛解期を繰り返します。原因がわかっていないことから根治できる治療法がなく、厚生労働省から難病指定を受けています。ただし、炎症を鎮めて寛解期に導き、適切な治療を続けることでよい状態をキープできるようになっています。専門医による鑑別と治療が不可欠ですので、できるだけ早く消化器内科を受診してください。
なお、クローン病と症状や経過が似ていますが、潰瘍性大腸炎は大腸を中心に炎症を起こし、クローン病は口から肛門までという消化管全域に炎症を起こす可能性がある点が大きく異なります。

潰瘍性大腸炎の原因

発症の原因はまだはっきりわかっていませんが、潰瘍性大腸炎の炎症は、免疫系の防御システムが過剰に活動して起こっていると考えられています。世界中の研究から、潰瘍性大腸炎の炎症を起こしているのが、過剰につくられるTNF-αという体内物質であることは判明しています。


潰瘍性大腸炎の症状

  • 腹痛
  • 下痢
  • 血便
  • 発熱
  • 貧血
  • 体重減少

下痢や血便がまず起こり、腹痛を伴うことも多くなっています。重症化すると、貧血によるめまい、頻脈、動悸や、発熱、体重減少などを生じることもあります。

合併症

炎症が重症化した場合、腸管の狭窄や閉塞、腸が膨張して中毒症状を起こす巨大結腸症、大量出血などを起こす危険な合併症を生じ、緊急手術が必要になることがあります。こうした合併症を起こさないためにも、治療の継続と定期的な大腸カメラ検査(大腸内視鏡検査)は不可欠です。
また、大腸以外の関節や皮膚、眼などの合併症や、肝胆道系障害、結節性紅斑、口内炎などを起こすこともあります。

検査と診断

症状の内容、症状が起こりはじめた時期や経過、既往症や服用している薬などについて詳しく伺います。
その上で大腸カメラ検査を行って、大腸粘膜に特徴的な炎症の有無を確認し、病変の組織を採取して確定診断します。

治療

症状が続く活動期(再燃期)と、落ち着く寛解期(再燃期)を繰り返すため、寛解期に治ったと思って治療を中断してしまうと悪化して再び活動期に入ってしまいます。薬物療法が基本的な治療で、症状がある場合には炎症をできるだけ短期間に抑え、寛解期を長く続けられるように治療を継続します。
5-ASA製剤は活動期、寛解期の両方で使われる薬です。活動期で炎症が強い場合には、ステロイドによって短期間に炎症を抑えます。
また、免疫を抑制する免疫調節薬、抗TNF-α抗体である生物学的製剤、抗菌薬などが使われることも増えています。

5-ASA製剤 小腸と大腸に効果が見込めるメサラジンと、大腸に効果が見込めるサラゾスルファピリジンから、適切なものを処方します。寛解期にも継続投与されます。
副腎皮質ホルモン(ステロイド) 活動期の炎症が強い場合に短期間処方して、強力な炎症抑制作用で状態を改善させます。主にブレドニゾロンを用います。
免疫調整薬 免疫反応を抑制することで、活動期から寛解期へと導く効果を期待できます。ステロイドの使用量抑制などの目的で使われることもあります。
抗TNF-α抗体製剤 潰瘍性大腸炎の炎症を起こしている原因物質であるTNF-αという体内物質が過剰につくられないよう抑制し、炎症を緩和させます。

日常生活での注意点

寛解期には発症前とあまりかわらない生活が可能です。
お仕事や学業に関する制限はありませんが、日常生活に少し気を付けることで寛解期のキープに役立ちます。


運動

激しい運動は行わないでください。軽い有酸素運動を続けることは潰瘍性大腸炎にも有益だと考えられています。


食事

寛解期の食事制限はありませんが、暴飲暴食など消化器への負担が大きい食事は避けてください。バランスのよい食事を心がけることは有益ですが、食事の楽しみを損ねない程度にしましょう。


アルコール

アルコールの影響はわかっていませんが、寛解期には適度な量であれば飲酒をしても問題ないと考えられています。


妊娠・出産

寛解期を長く続けるコントロールができる状態になって、妊娠・出産・授乳してお子様を育てている患者様は少なくありません。
妊娠中も再び活動期にならないよう潰瘍性大腸炎の治療を継続する必要がありますので、できれば妊娠する前に主治医じっくり相談して、妊娠した場合の治療方針を考えておくことをお勧めしています。
妊娠がわかったからと自己判断で急に治療をやめてしまうと、炎症が悪化してしまい、母体や胎児に負担の大きい治療が避けられなくなってしまう可能性があります。妊娠がわかったらすぐに受診してください。
妊娠中は、胎児への影響を可能な限り抑えながら、再び活動期に入らないよう普段よりもさらにデリケートなコントロールが必要になります。医師の指示を守って、しっかり治療を続けましょう。

クローン病について

消化管に炎症が起きて、びらんや潰瘍を生じます。症状のある活動期と症状のない寛解期を繰り返し、原因がまだよくわかっていないため根治に導く治療法がなく、厚生労働省から難病指定を受けています。炎症を緩和させる有効な治療法がありますので、消化器内科で確定診断を受けて適切な治療を続けることで発症前とあまり変わらない生活を送ることも可能になっています。こうした特徴は潰瘍性大腸炎と似ていますが、潰瘍性大腸炎は主に大腸に炎症を起こし、クローン病は消化管の全域に炎症を起こす可能性がある点が違い、異なる治療が必要になる別の病気です。消化管に広範囲の病変がある場合には、消化管を休ませて必要な栄養を補給するための栄養療法が必要になることもあります。症状のない寛解期にも適切な治療を続けないと活動期に再び入ってしまい、状態が悪化しやすいため、寛解期にもしっかり治療を続けることが重要です。
クローン病の炎症は正常な部分を挟んでできる傾向があり、病変が生じる部位によって小腸型、小腸・大腸型、大腸型に分けられ、症状や治療法が変わってきます。

クローン病の原因

はっきりとした原因はまだ解明されていませんが、体内に入った異物を排除するための免疫が過剰に働いて症状を起こしていると考えられています。潰瘍性大腸炎と同様にTNF-αという体内物質が過剰につくられて症状を起こしていることはわかっています。

クローン病の症状

初期には腹痛や下痢を起こすことが多くなっています。炎症が広範囲に起こる可能性がありますので、多彩な症状を起こします。消化管に広範囲の病変がある場合には、消化管を休ませて必要な栄養を補給するための栄養療法が必要になることもあります。

  • 腹痛
  • 下痢
  • 発熱
  • 体重減少
  • 切れ痔
  • 肛門の潰瘍や膿
  • 痔ろう

合併症

クローン病の炎症は粘膜の表面近くに生じ、進行すると下層にまで広がるため、さまざまな腸管合併症を起こすリスクがあります。腸管の狭窄や穿孔に加え、膿による膿腫や腸から内臓や皮膚につながるトンネル状の穴ができるろう孔などが生じることもあります。大量出血を起こすことがあり、大腸がんや肛門がんのリスクも症状します。
消化管以外でも、関節、眼、皮膚の症状や、肝胆道系障害、結節性紅斑、口内炎などを生じることがあります。

検査・診断

問診で症状の内容、症状が起こりはじめた時期や経過、既往症や服用している薬などについて詳しく伺ってから、大腸カメラ検査(大腸内視鏡検査)を行います。
クローン病は特徴的な炎症を生じさせるためしっかり確認し、病変の組織を採取して確定診断します。

治療

薬物療法を中心に、消化管の安静や必要な栄養の補給のための栄養療法を必要に応じて行います。
クローン病や合併症の状態が悪い場合には、外科手術を検討する場合もあります。

薬物療法

症状がある活動期には炎症をできるだけ早く鎮めて寛解に導く治療を行います。寛解期にはよい状態をできるだけ長くキープするための治療を継続して行います。活動期や寛解期に継続的に処方される5-ASA製剤、炎症が強い場合は短期間に炎症を抑えるステロイドを用います。免疫調節薬、抗TNF-α抗体である生物学的製剤、抗菌薬などによって高い効果を得られるケースも増えてきています。

5-ASA製剤 小腸と大腸に効果が見込めるメサラジンと、大腸に効果が見込めるサラゾスルファピリジンから、炎症の状態に合わせたものを処方します。寛解期にも継続投与されます。
副腎皮質ホルモン(ステロイド) 活動期の炎症が強い場合に短期間処方ます。状態に合わせたステロイドを選択します。強力な炎症抑制作用で状態を短期間に改善させて寛解に導きます。
免疫調整薬 免疫反応を抑制して寛解状態に導きます。安定するまでに時間がかかることがあります。
抗TNF-α抗体製剤 過剰につくられることで炎症を起こしている体内物質であるTNF-αの働きを抑制して、炎症を鎮めます。

栄養療法

クローン病の病変が食事によって強い刺激を受けて状態が悪化することがあり、そうした場合には刺激を排除して消化管の安静を保つ必要があります。また、広範囲に炎症が起こって栄養状態の悪化を起こすこともあります。こうしたことから、クローン病の活動期には栄養療法が必要になることがあります。口や鼻から摂取する経腸栄養療法と、点滴によって投与する完全静脈栄養法があります。点滴による栄養療法は重度の狭窄や広範囲の病変がある場合に行われることが多くなっています。

日常生活での注意点

寛解期には発症前とあまり変わらない生活が可能です。お仕事や学業に関する制限はありませんが、日常生活に少し気を付けることが寛解期のキープにつながります。また、クローン病では特定の食品が刺激になって状態を悪化させることがありますので、食事制限が必要になることもあります。ただし、できるだけ最小限の制限にとどめます。

運動

過度な運動は避けますが、軽い有酸素運動はクローン病の寛解期キープにも役立つと考えられています。


食事

病変のある部分や消化吸収機能によって、症状が悪化する食べ物が異なります。
また特定の食品が刺激となって症状につながる場合には、その食品を排除します。
低脂肪で食物繊維が少なく、消化管への負担が少ない食事を基本にしますが、寛解期には刺激となる食品だけを避ける程度で大丈夫です。できるだけ制限を少なくすることで栄養の偏りも解消でき食事の楽しみも増えます。


アルコール

飲酒の影響はまだよくわかっていませんが、寛解期の適度な飲酒は問題がないと考えられています。


喫煙

クローン病の症状再燃や悪化には、喫煙が関与していることが指摘されていますので、禁煙が必要です。


妊娠・出産

クローン病の方でも、寛解期に治療を続けてしっかり状態をコントロールし、妊娠・出産した方も多く存在します。
妊娠中も継続した治療が必要ですので、胎児への影響を最小限に抑えて再び活動期に入らないよう、普段よりさらにデリケートなコントロールが必要になります。できれば、妊娠前に妊娠した場合の治療方針を主治医と相談して事前に決めておくと安心できます。

文責:佐久間 大 院長 【日本消化器内視鏡専門医・指導医、日本消化器病専門医・指導医、日本肝臓専門医、日本内科総合内科専門医 など】

TOPへ